英国の密入国対策法案は効果があるのか 専門家が指摘
英国政府は密入国を防ぐ新法案を推進するが、専門家は効果を疑問視
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英国議会は2月、ゴムボートで英仏海峡を渡る密入国者の急増を抑えるため、渡航を支援する犯罪組織を取り締まる法案を審議する。しかし、専門家によると、この法律では密入国を阻止できないという。写真は移民を乗せ、英仏海峡を英国へ向かって航行するゴムボート。2024年8月、ドローンで撮影。(2025年 ロイター/Chris J. Ratcliffe) |
英国議会は2月、英仏海峡を渡る密入国者の急増を抑えるため、新たな「国境警備・亡命・移民法案」の審議を開始した。この法案は、不法入国の手引きをする犯罪組織を取り締まることを目的としている。しかし、専門家の間ではこの法案が実効性を持つかどうかについて疑問の声が上がっている。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)の研究員クレア・ヒーリー氏は、「密入国を阻止したいのであれば、需要に目を向ける異なるアプローチが必要だ」と指摘。「難民や移民が密入国業者に近づくのであって、その逆ではない。渡航を希望する移民が合法的な手段を利用できないため、密入国に頼らざるを得ない」と語った。
密入国対策が逆効果になる可能性
欧州では不法入国を阻止するためにさまざまな法律が施行されているが、調査によると、これらの対策は十分な効果を上げていない。密入国を手助けするのは、国際的なギャングよりも個人や非公式な協力者であるケースが多く、移民自身が仲介者となることもある。
英仏海峡を渡るボートは2024年に約700隻を記録し、3万6,800人以上が英国に到達した。これは前年より25%増加しているが、2022年の4万5,791人よりは減少している。
こうした状況を受け、英国のイヴェット・クーパー内相は、「英国にはギャングを取り締まる以外に選択肢はない」と主張し、安全な移民ルートの拡大が解決策にならないとの見解を示した。
法案の主な内容
1月に議会に提出された「国境警備・亡命・移民法案」では、不法移民のアフリカ中部ルワンダへの移送を定めた前政権の計画を廃止。その代わりに、国内外の犯罪対策部隊の調整を担う「国境警備司令部」の設置を盛り込んでいる。
また、この法案では移民犯罪対策としてテロ対策関連の法律が適用されることとなり、不法入国を容易にする小型ボートの部品供給も犯罪行為と見なされるようになる。政府は監視技術に1億5,000万ポンド(約1億8,800万ドル)を投じ、国境犯罪局(NCA)の捜査官を増員。新たなタスクフォースを国境警備司令官の指揮下に置く計画だ。
しかし、ヒーリー氏は「移民犯罪の大半は組織的なギャングによるものではなく、移民自身が単独で、または臨時の協力者と共に行っている」と指摘。密入国業者への取り締まりを強化しても、移民が新たな手段を模索するだけで根本的な解決にはならないと述べた。
英国の移民政策は効果を上げているのか
オックスフォード大学の研究によると、2022年に施行された英国籍・国境法では、書類不携帯での入国や入国幇助が犯罪行為とされたが、犯罪ネットワークに関与する主要人物を捕らえることには失敗している。その代わり、18歳未満を含む多くの移民や難民申請者、人身売買の被害者が逮捕・収監されていることが明らかになった。
この調査を執筆したビクトリア・テイラー氏は、「ギャング壊滅という大義名分のもと、多くの移民が不当に収監されている」と警鐘を鳴らした。
英仏海峡の渡航はより危険に
英国の移民犯罪対策タスクフォース「プロジェクト・インビガー」は海外の密入国ネットワークを摘発してきたが、その影響は短期的なものにとどまり、密入国業者は新たなルートを確保するなどの対応を行っている。
国際移住機関(IOM)のデータによると、2024年に英仏海峡で記録された移民の死亡者数は少なくとも82人と過去最多を更新した。さらに、難民評議会は1月の報告書で「密入国業者の取り締まり強化により、ボート1隻に詰め込まれる移民の人数が増え、英仏海峡ルートの危険度がさらに増している」と警告した。
国際的な協力と合法的ルートの整備が鍵
ヒーリー氏は、「密入国で最も利益を得て移民を搾取しているのは組織犯罪の上層部であり、彼らを標的にするには国際的な合同捜査が不可欠だ」と指摘。その上で、「安全で合法的な移民ルートの整備も必要である」と述べた。
同氏は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、英国がウクライナ人に法的保護を提供したことで、搾取や人身売買を抑制できたという国連の調査結果を引き合いに出し、「不法移民や密入国の防止については、成功例は少ないが、このケースでは犯罪や虐待を防げたと言える」と語った。
まとめ
英国の新たな密入国対策法案は、ギャングの取り締まりを強化し、不法移民の流入を防ぐことを目的としている。しかし、専門家はこのアプローチが逆効果になりかねないと警鐘を鳴らしている。
密入国の主な原因は、移民が合法的なルートを利用できないことにある。犯罪組織の摘発だけでは問題は解決せず、安全で合法的な移民制度の整備が必要だと専門家は指摘している。
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